2026年02月28日 [日常あれこれ]
高齢なペットが病気になった時どう向き合うか について
こんにちは、獣医師の大野です。
目のかゆみで春の接近を感じる今日この頃です。
毎年当院前の鉢植えは
こんな感じで春にはチューリップとビオラが咲いていました。
でも昨秋、例年と比べてビオラの苗が急に高くなったこと、
チューリップの球根も非常に高くなったことを受け、
今年は種から自分でビオラ苗を作ることにしました。
(チューリップは泣く泣く諦めました)
使用したのはこちらの種
この3袋、全部合わせると種は300個ぐらいになりました。
発芽率は大体70%らしいので、単純計算で210個の苗ができます。
まあ、種からは初心者なので、半分の100個ぐらいできれば合格かなと思ってました。
秋にこんな風に種を植えたところ…
結果…発芽率10%!
少なっ!って思ってましたが、これはあくまで発芽率です。
この苗を鉢植えに植えたところ、その後に枯れてしまったものもあり
結果、生き残ったのはたったの13株!
しかも某会社の種は1つも発芽しませんでした。
袋の裏に書かれてある通り育ててみましたが、
そもそもこの袋の記載は何年も内容が更新されておらず、
でも確実に温暖化が進んでいるので、
たぶん種まきのタイミングとか微妙に違っているんだろうなと思います。
プロの育苗家の方はすごいです。
入り口前の鉢に植え替えて1か月たち
こんな感じに成長しました。真ん中には挿し芽から育てたマーガレット苗を配置。
そんなわけで例年は春っぽいパステル系のビオラを植えていましたが、
私が普段選ばない色タイプが咲いています。
しかもミックスの種だと何色が咲くか分からず、運に任せる感じです。
紫系と黄色系が多めですが、この色が強いから生き残った結果なのか、
それとももともとこの色の種しか入っていないのかもよく分からない。
大きくなってくれると良いのですが・・・
でも来年はやはり四の五の言わずに苗を買おうと思いました!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
動物を手術する際は、全身麻酔をかけて実施します。
麻酔自体、何のためにかけるのかというと、
・動いたら危険だから
・動かないようにずっと押さえているのはかわいそうだから
・恐怖心が強くてストレスになるから
など、理由はたくさんあります。
時々「〇歳でもう高齢だから麻酔はかけられない」という方がいます。
完全に間違っているというわけではないですが、ちょっと言いすぎな部分も…。
年齢も確かに気になりますが、本当に大事なのはその子の全身状態です。
どんなに若くても心臓や腎臓、肝臓などが悪ければ麻酔は危険ですし、
逆に高齢であっても健康であれば麻酔がかけられないわけではありません。
でも、検査結果が良かったとしても、獣医さんによっては
「高齢だからね〜・・・」で避ける先生がいるのも事実です。
同じ獣医師として、その先生の本当の気持ちを想像してみます。
CASE.1 16歳の犬の異物誤食
異物の誤食はやる子は何歳になってもやります。
小さいものだったり食べてすぐだったりすれば、
催吐処置で吐かせたり、ウンコと一緒に出てくるのを待つ方法もあります。
でもある程度の大きさがあって吐かせることが難しかったり、
時間が経過して胃から小腸へ抜け、そこでストップしてしまったらどうでしょう。
放っておけば腸に穴が開いて腹膜炎をおこし、敗血症で死んでしまうかもしれません。
既に症状が出始めていて、術前検査で問題がなければ全身麻酔で手術となります。
食べた物にもよりますが、大抵胃や腸の一部を切って、中から異物を出します。
でも詰まってからそれなりに時間が経ってしまっていると、
腸が一部壊死してしまうこともあるため、その場合には
壊死した部分を切り取って正常な腸同士で縫い合わせます。
これはよくあると言えばありますが、結構神経を使う手術になります。
麻酔も手術も無事に終わり、あとは腸の回復を待つだけ…となったとしても、
16歳の犬の腸は若い犬の腸とは違います。
回復にも時間がかかるのは間違いありません。
それに、数日間入院となったことでストレスから免疫力が低下し、
術前には問題がないと判断されたところから異常が生じることもあります。
つまり、【手術が成功したからと言って、まだ油断はできない】可能性が高いのが
高齢動物なのです。
CASE.2 16歳の猫の臼歯抜歯
猫で比較的多いのがこれです。
真っ赤になって出血も・・・
猫は犬以上に、歯を磨くことや歯磨きガムと無縁な子は多く、
それ故歯周病に悩まされる高齢猫は本当に多いです。
歯が痛くてご飯が食べられない、頑張って食べようとしたら
口から出血をしてしまい、ご飯の度に痛みで悲鳴をあげてしまう、
体は健康なのにご飯が食べられないからどんどん痩せて脱水も進む…。
この場合はまずは飲み薬や注射で治療をしますが、
「お薬は絶対飲ませられません!」という人が半数以上です。
そもそも薬を飲む習慣がなかったのに、
出血するほど痛い口周りを大人しく触らせてくれる子は少なく、
また、痛くて食べられないからご飯に混ぜて与えることもできません。
しかも一度飲ませればよいというものでもなく、この投薬が毎日続きます。
そのうち猫が「薬を飲まされるからこの家は安心できない」となり、
家族に近寄らなくなったり、身を隠すようになってしまいます。
注射での痛みのコントロールもうまくいかない場合には、
最終的には全身麻酔をかけて歯を抜く処置となります。
先ほどの犬の異物誤食とは異なり、腸を切ったりするわけではない、
人間だったら歯医者さんで事足りるような処置ですので、
それほど負担はないように思われます。
ただ、麻酔をかけての処置が終わり、ご飯も食べられるようになったけれど
その数か月後に亡くなった場合、それは何故亡くなったのでしょうか。
猫の寿命は平均14.5歳、16歳ならいつお迎えが来てもおかしくない年齢だったから、
実際には寿命が来ただけかもしれないけど、
「麻酔をかけたせいで」という気持ちになってしまうかもしれませんし、
「お金をかけたのに、1年も生きられなかったじゃないか」となる可能性もあります。
やらなきゃ100%死ぬ!だったらまだ腹を括れる部分もありますが、
100%死ぬわけではないけど放っておけば命に関わるかもしれない、
でももしかしたらそのままでもしばらく元気でいられるかもしれない…
これぐらいの感じだと本当に難しい判断です。
やるべきことをやったのに助けられない、
寧ろやらないほうが良かったのか?とすら思えてくる、
そんなリスクがある処置、獣医さんも本当はあまりやりたくありません。
最終的に手術をするかどうかを決めるのは飼い主さんなので、
飼い主さんが決めた方針で治療は進めていきますが、
「高齢だからね〜」と言いたくなるのもご理解いただけますでしょうか?
一番良いのは、【そうならないようにすること】に尽きます。
CASE.1で言えば、誤食する犬は恐らく若い時から何度かやっているはずです。
犬の届く範囲に物を置かないように気を付けるとか、
人間側で努力すれば防げるタイプの事例です。
CASE.2に関しては難しいですが、若い頃から歯磨き習慣をつけるとか、
お気に入りの歯磨きガムを探しておくとか、
まだ体力のある中齢ぐらいのうちに一度歯の処置をしておくとか、
そんな風に【高齢になってからの麻酔】を避ける方法もあります。
もちろん、【医療以外の選択肢】も存在します。
それは、【何もしない】です。
実際診療をしていると、この方針を選択する飼い主さんはとても多い印象です。
「もう寿命だから」と考えて嫌がる投薬などはせずに動物の自主性に任せる、
「病院も嫌がって可哀そうだから通院も入院もさせない」
「もう治療はしない」 というのも決して間違いではありません。
動物はあくまでも“飼い主さんの所有物”ですから、
その子の行く末や間接的にその子の寿命を決めるのは飼い主さんです。
どんな結果であろうと、飼い主さんが決断したことが正解になります。
のんさんも基本的には拘束されたりがメンタルにくるタイプなので
こういうタイプの動物を飼う一飼い主としてはわからなくない選択です。
ですがその代わり、この選択をするということは、
薬などの医療に頼ることなく徐々に弱って死を迎えるその時まで
動物の不快に家族で寄り添い続ける
という並大抵ではない強い精神力が求められます。
正直一番不幸なのは、この覚悟がないのにこの選択をしてしまうことです。
私はどちらかというと精神力は強い方だと思いますし、
職業柄動物の死に多くかかわっているだけでなく、
プライベートでもたくさんの動物たちを見送ってきました。
そんな私でも、のんさんが痛がったり苦しんだりしているのを
「歳だからしょうがないね」と眺めているなんてできません。
よくよく考えたら、自分が高齢になって老い先が短いとしても、
「大野さん、苦しいでしょうけどもう歳なんで治療しません」
「歳なんで、我慢してください」なんて言われたくないですよね。
「ダッシュできなくなった」とか「目がかすむ」とか「耳が遠い」ぐらいならいいですけど、
「痛い」「苦しい」「吐き気がする」「ご飯が食べれない」とかは
何とかして欲しいと思うはずです。
人間の場合には自分が歳を取ったことも分かっていますし
「こうしてほしい」が言えますが、動物の場合は言えません。
なので、のんさんが
「のんちゃんは としだから しょうがないにゃ」なんて思うわけもなく、
本当は「いたいのを なんとか してほしいにゃ」と思っているのに
「歳だから」と彼の気持ちに寄り添わないで飼い主が自分の都合で
一方的に決めてしまっているかもしれません。
「なんで たすけて くれないにゃ」なんて悲しくなってるかもしれません。
実際、「自然に任せる、何もしない」の選択をしたとしても
腹を括って弱っていく姿を受け入れて寄り添っていける人はとても少なく、
多くの人は本当に状態が悪くなってから「何とかして欲しい」となります。
実はこれが飼い主さんにとっても動物にとっても獣医師にとっても一番辛い結果となります。
それならもっと早い段階で麻酔をかけたかった…
多少苦労してでも飲み薬を続けてほしかった…
そもそも元気なうちに投薬の練習をしてほしかったし、
入院や通院をためらわないぐらい人慣れさせておいてほしかった…
あの時ならまだ食欲があったから薬をご飯に混ぜることもできただろうし、
比較的安全に麻酔をかけての処置もできたけれど
日数がたって病気が進行し、体が弱ってきた今麻酔をかけるのは
よりリスクが高くなってもうできない…
みたいなことが実は非常に多いのです。
そんなことにならないように、我々獣医師は
「若いうちから人慣れさせてくださいね」とか
「投薬できるように口を開ける練習をしてくださいね」と指導をします。
それは、苦労している高齢動物の飼い主さんの気持ちをつたえているのですが、
でもどうも元気なうちは響かないんですよね。
病気になった場合でもできるだけわかりやすく
様々な治療の選択肢を提示し、それぞれのメリットやデメリット、
これまでどんな事例があったのかなどを説明するように心がけています。
冷たく感じるかもしれませんが、私たちにできるのはここまでで、
結局最後にその子の未来を決定するのは飼い主さんです。
このことは動物を飼う上で一番心の負担を感じる部分だと思います。
でもどんなに負担だとしても、逃げることはできません。
こういう部分も含めて【動物を飼う責任】ということです。
その決定をするときに、「薬が飲めないから」「人慣れしていないから」で
選択肢を少なくしてほしくはないんです。
読んでいて不安になった方、辛くなってしまった方もいらっしゃるかもしれません。
いつかは死ぬことが分かってて生活しているのに、
なぜ不安になったり辛くなってしまうのか、
その理由の1つは【準備ができていないから】です。
いざそういう状況になった時は当然心の負担は大きいのですが、
せめて「病気になって悲しい、でもお薬を飲ませることはできる」とか、
「家族の誰もがクオリティを下げずに同じようにお世話をしてあげられる」とか、
「不安ではあるけど、ちゃんと準備してきたからお金の心配はいらない」となれば、
雑多なことに時間や心を費したりすることなく、誰か1人に負担をかけることなく
家族みんなで躊躇なくその子に真正面から向き合ってあげられます。
【いざという時のための準備】は、個々それぞれ異なります。
のんさんは3歳ぐらいまでは
「注射ができない」「採血ができない」「レントゲンで暴れて撮影できない」
と出来ないことがあまりにも多かったのですが、
定期的に血液検査をして針の痛みに慣らしたり、
↑こんな風に時々強制的に変な姿勢を取らせて我慢させたりしているうちに
これらの課題はクリアしました。
(よくよく見ると全部院長がおもちゃにしてる時の写真。院長に感謝ですね)
今現在の課題は「お金の準備」と「メンタルを強くすること」です。
もし馬場家のちゃくさんがお薬を上手に飲めるようになったら、
「薬を飲ませられないから治療を諦める」ということがなくなります。
黒田家のレオ君がケージや人に慣れてくれれば、
躊躇うことなく必要な時に入院治療ができるようになります。
のんさんはお金の問題なので飼い主がただひたすら頑張るのみです。
こんな風に課題がわかって今から小さな問題に取り組んで準備ができると、
病気発覚で不安になったとしても少し心に余裕を持つことができますし、
「私はやれるだけのことはやった」と思えると思います。
「やれるだけのことはやった」と思えるかどうか、これは
【ペットロス対策】にも繋がります。
私は幼少期、雑種の大型保護犬を飼っていました。
私が4歳の時から飼い始めたので、自分にとっては弟同然でしたが、
犬は人間よりも寿命が短いことはわかっていたので、
幼稚園児でありながら「いつかその日が来たらどうしよう」と
いつもそのことに悩み、眠れない夜を何度も過ごしました。
高校3年生の時にその犬が突然体調を崩し、私は学校を休んで看病をしましたが
その後1週間ほどで亡くなりました。
学校をさぼって看病できたことは良かったことでしたが、
案の定ペットロスとなり、もしかすると今でも薄っすら続いています。
何故ペットロスになってしまったか…を深く考察してみると
・自家用車がなく、40kg近い大型犬をいつもの病院には連れていけなかったこと
・経済力がなく、原因の追究や踏み込んだ治療、二次診療受診などができなかったこと
・子供の私には自由な決定権がなかったこと
など、「もっとしてあげられることがあったのでは?」
という気持ちが残っている為だと思います。
今私はのんさんと生活をしていますが、のんさんに関する決定権が全て私で、
以前よりも医療行為を少し許容してくれるようになったことで、
私が全て決めて望むことは何でもしてあげられます。
もちろん、そのことで飼い主としての責任はすべて私1人に乗っかってきます。
まあ仕方ないですね。動物を飼うということはそういうことですから。
亡くなったらもちろん悲しいでしょうが、しっかり向き合ってあげることが出来れば
ペットロスを少しは和らげることができるのではと思います。
春は気温の変化などもあるせいか、体調を崩しやすく、
高齢な動物たちでは亡くなる子も多い季節です。
あまり考えたくないかもしれませんが、後悔のない最期を迎えさせてあげられるよう
まだ元気なうちからできる準備について考えてみませんか?
目のかゆみで春の接近を感じる今日この頃です。
毎年当院前の鉢植えは

こんな感じで春にはチューリップとビオラが咲いていました。
でも昨秋、例年と比べてビオラの苗が急に高くなったこと、
チューリップの球根も非常に高くなったことを受け、
今年は種から自分でビオラ苗を作ることにしました。
(チューリップは泣く泣く諦めました)
使用したのはこちらの種

この3袋、全部合わせると種は300個ぐらいになりました。
発芽率は大体70%らしいので、単純計算で210個の苗ができます。
まあ、種からは初心者なので、半分の100個ぐらいできれば合格かなと思ってました。

秋にこんな風に種を植えたところ…
結果…発芽率10%!
少なっ!って思ってましたが、これはあくまで発芽率です。
この苗を鉢植えに植えたところ、その後に枯れてしまったものもあり
結果、生き残ったのはたったの13株!
しかも某会社の種は1つも発芽しませんでした。
袋の裏に書かれてある通り育ててみましたが、
そもそもこの袋の記載は何年も内容が更新されておらず、
でも確実に温暖化が進んでいるので、
たぶん種まきのタイミングとか微妙に違っているんだろうなと思います。
プロの育苗家の方はすごいです。
入り口前の鉢に植え替えて1か月たち

こんな感じに成長しました。真ん中には挿し芽から育てたマーガレット苗を配置。
そんなわけで例年は春っぽいパステル系のビオラを植えていましたが、
私が普段選ばない色タイプが咲いています。
しかもミックスの種だと何色が咲くか分からず、運に任せる感じです。
紫系と黄色系が多めですが、この色が強いから生き残った結果なのか、
それとももともとこの色の種しか入っていないのかもよく分からない。
大きくなってくれると良いのですが・・・
でも来年はやはり四の五の言わずに苗を買おうと思いました!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
動物を手術する際は、全身麻酔をかけて実施します。
麻酔自体、何のためにかけるのかというと、
・動いたら危険だから
・動かないようにずっと押さえているのはかわいそうだから
・恐怖心が強くてストレスになるから
など、理由はたくさんあります。
時々「〇歳でもう高齢だから麻酔はかけられない」という方がいます。
完全に間違っているというわけではないですが、ちょっと言いすぎな部分も…。
年齢も確かに気になりますが、本当に大事なのはその子の全身状態です。
どんなに若くても心臓や腎臓、肝臓などが悪ければ麻酔は危険ですし、
逆に高齢であっても健康であれば麻酔がかけられないわけではありません。

でも、検査結果が良かったとしても、獣医さんによっては
「高齢だからね〜・・・」で避ける先生がいるのも事実です。
同じ獣医師として、その先生の本当の気持ちを想像してみます。
CASE.1 16歳の犬の異物誤食
異物の誤食はやる子は何歳になってもやります。
小さいものだったり食べてすぐだったりすれば、
催吐処置で吐かせたり、ウンコと一緒に出てくるのを待つ方法もあります。
でもある程度の大きさがあって吐かせることが難しかったり、
時間が経過して胃から小腸へ抜け、そこでストップしてしまったらどうでしょう。
放っておけば腸に穴が開いて腹膜炎をおこし、敗血症で死んでしまうかもしれません。
既に症状が出始めていて、術前検査で問題がなければ全身麻酔で手術となります。

食べた物にもよりますが、大抵胃や腸の一部を切って、中から異物を出します。
でも詰まってからそれなりに時間が経ってしまっていると、
腸が一部壊死してしまうこともあるため、その場合には
壊死した部分を切り取って正常な腸同士で縫い合わせます。
これはよくあると言えばありますが、結構神経を使う手術になります。
麻酔も手術も無事に終わり、あとは腸の回復を待つだけ…となったとしても、
16歳の犬の腸は若い犬の腸とは違います。
回復にも時間がかかるのは間違いありません。
それに、数日間入院となったことでストレスから免疫力が低下し、
術前には問題がないと判断されたところから異常が生じることもあります。
つまり、【手術が成功したからと言って、まだ油断はできない】可能性が高いのが
高齢動物なのです。
CASE.2 16歳の猫の臼歯抜歯
猫で比較的多いのがこれです。

真っ赤になって出血も・・・
猫は犬以上に、歯を磨くことや歯磨きガムと無縁な子は多く、
それ故歯周病に悩まされる高齢猫は本当に多いです。
歯が痛くてご飯が食べられない、頑張って食べようとしたら
口から出血をしてしまい、ご飯の度に痛みで悲鳴をあげてしまう、
体は健康なのにご飯が食べられないからどんどん痩せて脱水も進む…。

この場合はまずは飲み薬や注射で治療をしますが、
「お薬は絶対飲ませられません!」という人が半数以上です。
そもそも薬を飲む習慣がなかったのに、
出血するほど痛い口周りを大人しく触らせてくれる子は少なく、
また、痛くて食べられないからご飯に混ぜて与えることもできません。
しかも一度飲ませればよいというものでもなく、この投薬が毎日続きます。
そのうち猫が「薬を飲まされるからこの家は安心できない」となり、
家族に近寄らなくなったり、身を隠すようになってしまいます。
注射での痛みのコントロールもうまくいかない場合には、
最終的には全身麻酔をかけて歯を抜く処置となります。
先ほどの犬の異物誤食とは異なり、腸を切ったりするわけではない、
人間だったら歯医者さんで事足りるような処置ですので、
それほど負担はないように思われます。
ただ、麻酔をかけての処置が終わり、ご飯も食べられるようになったけれど
その数か月後に亡くなった場合、それは何故亡くなったのでしょうか。
猫の寿命は平均14.5歳、16歳ならいつお迎えが来てもおかしくない年齢だったから、
実際には寿命が来ただけかもしれないけど、
「麻酔をかけたせいで」という気持ちになってしまうかもしれませんし、
「お金をかけたのに、1年も生きられなかったじゃないか」となる可能性もあります。
やらなきゃ100%死ぬ!だったらまだ腹を括れる部分もありますが、
100%死ぬわけではないけど放っておけば命に関わるかもしれない、
でももしかしたらそのままでもしばらく元気でいられるかもしれない…
これぐらいの感じだと本当に難しい判断です。
やるべきことをやったのに助けられない、
寧ろやらないほうが良かったのか?とすら思えてくる、
そんなリスクがある処置、獣医さんも本当はあまりやりたくありません。
最終的に手術をするかどうかを決めるのは飼い主さんなので、
飼い主さんが決めた方針で治療は進めていきますが、
「高齢だからね〜」と言いたくなるのもご理解いただけますでしょうか?
一番良いのは、【そうならないようにすること】に尽きます。
CASE.1で言えば、誤食する犬は恐らく若い時から何度かやっているはずです。
犬の届く範囲に物を置かないように気を付けるとか、
人間側で努力すれば防げるタイプの事例です。
CASE.2に関しては難しいですが、若い頃から歯磨き習慣をつけるとか、
お気に入りの歯磨きガムを探しておくとか、
まだ体力のある中齢ぐらいのうちに一度歯の処置をしておくとか、
そんな風に【高齢になってからの麻酔】を避ける方法もあります。
もちろん、【医療以外の選択肢】も存在します。
それは、【何もしない】です。
実際診療をしていると、この方針を選択する飼い主さんはとても多い印象です。
「もう寿命だから」と考えて嫌がる投薬などはせずに動物の自主性に任せる、
「病院も嫌がって可哀そうだから通院も入院もさせない」
「もう治療はしない」 というのも決して間違いではありません。
動物はあくまでも“飼い主さんの所有物”ですから、
その子の行く末や間接的にその子の寿命を決めるのは飼い主さんです。
どんな結果であろうと、飼い主さんが決断したことが正解になります。
のんさんも基本的には拘束されたりがメンタルにくるタイプなので
こういうタイプの動物を飼う一飼い主としてはわからなくない選択です。
ですがその代わり、この選択をするということは、
薬などの医療に頼ることなく徐々に弱って死を迎えるその時まで
動物の不快に家族で寄り添い続ける
という並大抵ではない強い精神力が求められます。
正直一番不幸なのは、この覚悟がないのにこの選択をしてしまうことです。

私はどちらかというと精神力は強い方だと思いますし、
職業柄動物の死に多くかかわっているだけでなく、
プライベートでもたくさんの動物たちを見送ってきました。
そんな私でも、のんさんが痛がったり苦しんだりしているのを
「歳だからしょうがないね」と眺めているなんてできません。
よくよく考えたら、自分が高齢になって老い先が短いとしても、
「大野さん、苦しいでしょうけどもう歳なんで治療しません」
「歳なんで、我慢してください」なんて言われたくないですよね。
「ダッシュできなくなった」とか「目がかすむ」とか「耳が遠い」ぐらいならいいですけど、
「痛い」「苦しい」「吐き気がする」「ご飯が食べれない」とかは
何とかして欲しいと思うはずです。

人間の場合には自分が歳を取ったことも分かっていますし
「こうしてほしい」が言えますが、動物の場合は言えません。
なので、のんさんが
「のんちゃんは としだから しょうがないにゃ」なんて思うわけもなく、
本当は「いたいのを なんとか してほしいにゃ」と思っているのに
「歳だから」と彼の気持ちに寄り添わないで飼い主が自分の都合で
一方的に決めてしまっているかもしれません。
「なんで たすけて くれないにゃ」なんて悲しくなってるかもしれません。
実際、「自然に任せる、何もしない」の選択をしたとしても
腹を括って弱っていく姿を受け入れて寄り添っていける人はとても少なく、
多くの人は本当に状態が悪くなってから「何とかして欲しい」となります。
実はこれが飼い主さんにとっても動物にとっても獣医師にとっても一番辛い結果となります。
それならもっと早い段階で麻酔をかけたかった…
多少苦労してでも飲み薬を続けてほしかった…
そもそも元気なうちに投薬の練習をしてほしかったし、
入院や通院をためらわないぐらい人慣れさせておいてほしかった…
あの時ならまだ食欲があったから薬をご飯に混ぜることもできただろうし、
比較的安全に麻酔をかけての処置もできたけれど
日数がたって病気が進行し、体が弱ってきた今麻酔をかけるのは
よりリスクが高くなってもうできない…
みたいなことが実は非常に多いのです。
そんなことにならないように、我々獣医師は
「若いうちから人慣れさせてくださいね」とか
「投薬できるように口を開ける練習をしてくださいね」と指導をします。
それは、苦労している高齢動物の飼い主さんの気持ちをつたえているのですが、
でもどうも元気なうちは響かないんですよね。
病気になった場合でもできるだけわかりやすく
様々な治療の選択肢を提示し、それぞれのメリットやデメリット、
これまでどんな事例があったのかなどを説明するように心がけています。
冷たく感じるかもしれませんが、私たちにできるのはここまでで、
結局最後にその子の未来を決定するのは飼い主さんです。
このことは動物を飼う上で一番心の負担を感じる部分だと思います。
でもどんなに負担だとしても、逃げることはできません。
こういう部分も含めて【動物を飼う責任】ということです。
その決定をするときに、「薬が飲めないから」「人慣れしていないから」で
選択肢を少なくしてほしくはないんです。
読んでいて不安になった方、辛くなってしまった方もいらっしゃるかもしれません。
いつかは死ぬことが分かってて生活しているのに、
なぜ不安になったり辛くなってしまうのか、
その理由の1つは【準備ができていないから】です。
いざそういう状況になった時は当然心の負担は大きいのですが、
せめて「病気になって悲しい、でもお薬を飲ませることはできる」とか、
「家族の誰もがクオリティを下げずに同じようにお世話をしてあげられる」とか、
「不安ではあるけど、ちゃんと準備してきたからお金の心配はいらない」となれば、
雑多なことに時間や心を費したりすることなく、誰か1人に負担をかけることなく
家族みんなで躊躇なくその子に真正面から向き合ってあげられます。
【いざという時のための準備】は、個々それぞれ異なります。
のんさんは3歳ぐらいまでは
「注射ができない」「採血ができない」「レントゲンで暴れて撮影できない」
と出来ないことがあまりにも多かったのですが、
定期的に血液検査をして針の痛みに慣らしたり、



↑こんな風に時々強制的に変な姿勢を取らせて我慢させたりしているうちに
これらの課題はクリアしました。
(よくよく見ると全部院長がおもちゃにしてる時の写真。院長に感謝ですね)
今現在の課題は「お金の準備」と「メンタルを強くすること」です。
もし馬場家のちゃくさんがお薬を上手に飲めるようになったら、
「薬を飲ませられないから治療を諦める」ということがなくなります。
黒田家のレオ君がケージや人に慣れてくれれば、
躊躇うことなく必要な時に入院治療ができるようになります。
のんさんはお金の問題なので飼い主がただひたすら頑張るのみです。
こんな風に課題がわかって今から小さな問題に取り組んで準備ができると、
病気発覚で不安になったとしても少し心に余裕を持つことができますし、
「私はやれるだけのことはやった」と思えると思います。
「やれるだけのことはやった」と思えるかどうか、これは
【ペットロス対策】にも繋がります。
私は幼少期、雑種の大型保護犬を飼っていました。

私が4歳の時から飼い始めたので、自分にとっては弟同然でしたが、
犬は人間よりも寿命が短いことはわかっていたので、
幼稚園児でありながら「いつかその日が来たらどうしよう」と
いつもそのことに悩み、眠れない夜を何度も過ごしました。
高校3年生の時にその犬が突然体調を崩し、私は学校を休んで看病をしましたが
その後1週間ほどで亡くなりました。
学校をさぼって看病できたことは良かったことでしたが、
案の定ペットロスとなり、もしかすると今でも薄っすら続いています。
何故ペットロスになってしまったか…を深く考察してみると
・自家用車がなく、40kg近い大型犬をいつもの病院には連れていけなかったこと
・経済力がなく、原因の追究や踏み込んだ治療、二次診療受診などができなかったこと
・子供の私には自由な決定権がなかったこと
など、「もっとしてあげられることがあったのでは?」
という気持ちが残っている為だと思います。
今私はのんさんと生活をしていますが、のんさんに関する決定権が全て私で、
以前よりも医療行為を少し許容してくれるようになったことで、
私が全て決めて望むことは何でもしてあげられます。
もちろん、そのことで飼い主としての責任はすべて私1人に乗っかってきます。
まあ仕方ないですね。動物を飼うということはそういうことですから。
亡くなったらもちろん悲しいでしょうが、しっかり向き合ってあげることが出来れば
ペットロスを少しは和らげることができるのではと思います。
春は気温の変化などもあるせいか、体調を崩しやすく、
高齢な動物たちでは亡くなる子も多い季節です。
あまり考えたくないかもしれませんが、後悔のない最期を迎えさせてあげられるよう
まだ元気なうちからできる準備について考えてみませんか?

